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    観月3

     





     私の首には白いリボンが蝶々結びになっていて、そのリボンには別の長いリボンが結びつけられている。
     首のリボンは自分で結んだものだけれど、長い方は私が勝手にウロチョロして迷惑をかけないように、笹原くんが結んでくれたものだ。
     白いリボンはかわいいし、彼の結び方はとても優しかったし、今はこの少しふざけた感じがとても楽しかった。
     そして楽しいのと同じくらい、とてもエッチな感じだと思った。楽しくてエッチな感じがして、私の心は甘酸っぱい気分でいっぱいだった。
     私だってもう中学二年生だからエッチな気分になることもたまにあるし、それで悩んだりするほどに子供でもない。……けれど、この感覚は普通よりもずっと特殊ですごくエッチな気がする。
     そう。普通じゃなくて、すごくエッチ。
     不思議なことに、今日の私はいつもよりすごくエッチだ。
     どうしてだろう? 映画のベッドシーンなんかで胸が高ぶったりしても、普段ならすぐに気持ちが切り替わるのに、この不思議な感覚は朝の体育用具室から今までもう四時間以上もずっとつづいている。
     それはやっぱり、あの指を吸いあった体験があまりにもエッチすぎたせいだからなのかな?
     それとも私って、本当はとてもエッチな女の子だったのかな?
     昼休みにトイレに行ったときには下着の中が信じられないくらいに濡れてしまっていたし、それはティッシュで拭いてなんとか乾かしたけれど、さっき笹原くんにリボンを結んでもらったときからまた股間のあたりが少しぬかるみはじめたみたいだった。
     外見だけならとても真面目に見えるだろう私の中身がこんなになっているなんて、笹原くんが知ったらいったいどう思うだろう――?
     私の首からのびた白いリボンは準備室の中を横切って笹原くんの腕に巻かれている。最初は入り口の近くにある柱の金具に結ぶ予定だったものを、優しい彼は「それじゃあ佐倉さん一人が犬みたいでかわいそう」と言って自分の右腕に巻きつけてくれたのだ。
     彼が室内を動くたびに首に結んだリボンがくいくいと軽く引っ張られ、なんだか私は笹原くんとつながっているみたい。
    「佐倉さん、首だいじょうぶ?」
    「うん。ぜんぜん平気」
     明るく答える私だけれど、じつのところはぜんぜん平気じゃなかった。
     指を吸いあったときもすごくエッチな気がしたけれど、この中途半端な彼とのつながりは少し焦れったい感じがして、その焦れったさがどうしようもないほどにエッチな気分を高める。
     彼と私はリボンでつながっているのに、その間には三メートルもの空間があって、あの時のように彼の体温や血や唾液を直接感じることができない。
     感じることができない私は、まるで半身をなくしたように不安になってしまう。
     だから、
    「ちょっと引っ張るよ?」
     彼がそう言うたびに私は身構え、リボンに軽い衝撃が伝わるだけで心と体が敏感に震えてしまう。ぬかるんだあそこから熱い雫がこぼれてしまう。
     もっと近くにいたい。もっとしっかり笹原くんを感じたい。
     カラカラに乾いた喉みたいに心と体が訴える。
     たよりないリボンのつながりは、私の体に小さな幸福感と底なしの渇望を感じさせる。
     誰かを好きになるのってこういうことなのかな?
     それとも私が普通よりずっとエッチな女の子なだけなのかな?
     答えはたぶんその両方。
     私は笹原くんを好きになって、そのせいでとってもエッチな女の子に変わっちゃったんだ。
     リボンが首にこすれるだけで全身に軽い電気が流れるし、彼の腕に巻きついたリボンを意識するだけで、足の付け根のあたりがぐじぐじと熱く疼いてしまう。
    「佐倉さんの顔、赤いみたいだけど本当に苦しくない? なんならもうリボンほどこうか?」
    「あ、ううん。本当に大丈夫。ほどかれたら私、また悪さしちゃうかもしれないし」
    「うーん、それは困るかも」
    「そうそう。悪さしないようにもっときつく結んだほうがいいかも」
     考える前に自然と挑発のセリフが出てしまう。
     こんなに希薄な一体感に苦しむくらいなら、いっそのこともっと強く縛ってくれたらいいのに――なんて、まるでマゾの女の人みたいなことを思ってしまっている。
     ……私ってエッチだ。本当は普通よりずっとエッチなんだ。
     そう思うと頭の中がカァッと煮え立って、下半身から力が抜け落ちそうになった。
     ダメっ。ダメだよっ。
     そんなこと考えちゃいけないっ!
     笹原くんはただふざけて私の首にリボンを巻いてくれただけのに、勝手にそんないやらしいことを考えてる場合じゃない。今は大掃除の時間で、私と彼はしっかりこの部屋を掃除しなければならない。
     なのに……、
    「きつく結んだ方がいいって、そんなこと言うのなら本当にきつく結び直すよ?」
     明るく笑う彼に、私の挑発は止まろうとしない。
    「いいよ。ぜんぜん。今のはほら、ちょっと緩すぎてくすぐったい感じがするし」
     言い終えてから自己嫌悪に陥る私。自己嫌悪しながらも股間はジュンと湿っている。
     彼はしょうがないなと苦笑してリボンを軽くひっぱる。
     私はそれに素直に従い、内股でトコトコと彼に近寄った。いつもよりちょっと歩幅が小さいのは、下着の中からエッチな液がこぼれたりするといけないからだ。
    「じゃあ、ちょっと首そらして」
    「うん」
    「結び直すよ?」
    「うん」
     彼の手が私のリボンに掛かる。それだけでエッチな声があふれてしまいそうになる。
     リボンをほどく指の動きが首に伝わって、私はぎゅっと目をつむってエッチな声を我慢した。
    「…………っ!」
     首筋ってやっぱりすごい性感帯なんだ。
     彼の指がごそごそ動くのに合わせ、ゾクリとした快感が次々と私の背筋を駆け抜ける。
    「じゃあ、ちょっときつく締めるけどいい?」
    「うん。お願い」
    「よっと」
     小さなかけ声。私の首にリボンが食い込む。性感帯に強い刺激。
     きゅっ、きゅっ。
     リボンがひっぱられる。彼と私がつながる。私はこの瞬間、優しい彼のものになる。
     渇望感が埋め尽くされ、頭の中が真っ白に染まった。
    「ぁ、ぁ、ぁっ……」
     思わず声が漏れた。全身がわなないた。
     足が萎えそうになって、たまらず笹原くんの両腕をつかんでいた。
     息ができない。心臓がドキドキいってる。
     あそこが熱く火照って、トロリとした液が溢れてる。
     頭の芯が弱い電流に包まれて、今まで経験したことのない快感を私は感じている。
    「う、うぁっ、ぁ、ぁ……」
    「み、佐倉さん大丈夫!?」
    「あ……ぁ……う、うん、大丈夫……ちょ、ちょっと目眩がしただけ」
     私は慌てて彼の腕を離し、ふらつく足で自分の持ち場にもどった。
     使いかけの雑巾を絞る。目の前の壁についたシミをごしごし擦る。
     もしかして私、今、いっちゃいそうだった?
     けれど大丈夫。もう大丈夫。
     ここまで離れれば、万一エッチな液が下着から太股に溢れたとしても彼にはわからない。
     深呼吸して首のリボンを確かめた。
     よかった。ちゃんと結んでくれている。私と彼は今もちゃんとつながっている。
     深い安堵感と、どこか物足りないような体のうずき。
     それにしても、いったいいつまでこのエッチな感覚はつづくのだろう?
     けれどこの感覚はぜんぜん嫌じゃない。
     それはやっぱり、優しい笹原くんがそばにいてくれるからなのかな? 私が彼のことを好きになっちゃったからかな?
     なんだかとても満たされた気分に私は包まれていた。
    「時間も残り少ないし、がんばって掃除終わらせよっ」
     はずむような気持ちで宣言した。
     私はいつもの真面目な佐倉観月にもどって、掃除を一生懸命にがんばることにした。
     でも……、その前にとりあえず。
    「あの、トイレ、行ってもいい?」
     濡れた下着をなんとかしなければいけないのだった。


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    小説 ホワイトリボン | コメント(0) | トラックバック(0)2005/01/10(月)07:51

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